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引き算の美学~盛るか引くか

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HUMAN

sato

2022.06.15

先日、編集長が『「勇気ある引き算」が顧客満足度を高めることもある』の記事を書いていますが、私もちょうど同じようなことを考えていたので書きます。

以前、『脱・属人化のための5つのポイント』の記事の冒頭でピアノのお話しが書かれていました。
ミーハーな私も例に漏れず、まさにショパンコンクールにはまってピアノを習い始めた1人です。YouTubeでお気に入りの音楽を探すのが日課で、一番よく触れるのはピアノが入っている曲へと変わりました。

ピアノは同時に複数の音を奏でられるのが魅力の一つです。音域はどの楽器よりも広く、ピアノが「楽器の王様」、ピアニストが「一人オーケストラ」と呼ばれる所以です。

たくさんの音が出せるからこそ、ものすごいテクニックも見せやすく、音数の多い曲は「おぉ~っ」となるのですが、なぜかすぐにおなか一杯な気持ちになることもあります。 (私のピアノを弾くテクニックがなくてジャンジャン弾けないから、そう思うのかもしれませんが... )

なぜ、おなか一杯になってしまったのか、がわかったのは、とあるエピソードとの出会いがきっかけでした。

有名な作曲家フランツ・リストは、神業ともいえる超絶技巧の曲で知られていますが(「ラ・カンパネラ」などきっと皆さんも聴いたら、あっそれね!と思う方が多くいらっしゃると思います)、そんなリストも晩年はそれまでの作風とは大きくかけ離れた音数が少なくそぎ落とされた曲を作っています。

もう一つ、ジャズピアニストの小曽根真さんの「不要な音は一つもない」という言葉が好きです。
いずれも、行きつく先は、そぎ落とされ洗練された状態だということです。

たくさんの音、ものすごいテクニックは「おぉ~っ」とはなるのですが、不要な音ももしかしたらたくさんあるのかもしれません。

同じように、電話応対の世界でも洗練された素晴らしい応対を体現できたらいいなと思っています。電話応対の世界における楽譜が「トークスクリプト」だとしたら、ここに不要なフレーズは一つもなく、楽譜をもとに楽器である「オペレーター」が、洗練された曲としての「トーク」を展開することが理想です。

トークスクリプトのお話しはこれまでいくつか書かれていますので(『現場ドリブンスクリプト3選』)、ぜひご覧ください。

リストや小曽根真さんに倣い、そぎ落とされ洗練されたスクリプトに行き着きたい。
「おぉ~っ」とはなるけどお腹いっぱいな気持ちにさせる、こんな盛りフレーズがあふれていませんか。

重たすぎるオープニングの受け止め

お客様   :「すみません。
        先日予約したんですけど、6/16木曜日の11時からの予約をキャンセルしてほしいんですけど。」
オペレーター:「かしこまりました。
        先日ご予約いただいた6/16木曜日の11時からの予約をキャンセルでございますね。」

ものすごく正確といえばそうです。でも、お客様からすると、「わかってるわよ」という気持ちになってくどさを感じます。この後、ご本人確認で再度予約内容を確認し、最終の復唱確認を行うことが想像されるため、お客様を ”ますますくどくて面倒くさいな” という気持ちにさせる恐れがあります。  くどくなるだけならまだしも、本当に伝えたいことが埋もれて、際立たない勿体なさもあります。

もちろん正確性は保たなければなりませんが、すっきりさせたほうが良いし、全体を通して不足がなければ、冒頭部分で突き詰めなくて良いのです。

おそらくスクリプトには、「かしこまりました。~でございますね。(復唱)」と書かれていることでしょう。スクリプトに、想定できるすべての復唱フレーズを書くわけにはいかないため、適切だともいえます。

簡潔かつ正確な「復唱」にはテクニックが必要ですので、ここはスクリプトを見直すのではなくトレーニングがおすすめです。

盛りすぎクロージングトーク

オープニングの次は、クロージングトークについてです。

応対の新人さんでも取り組みやすいポイントですので、今まさに取り組んでいるセンターも多いと思います。そこで気をつけたいのがクロージングトークの盛りすぎ具合です。

「お客様にプラスの一言を伝えましょう」と取り組んでいる業務もあるでしょうし、私も「+一言」と言い続けてきたように思います。とても良い取り組みだと思う一方で、気をつけたいポイントがあります。

先日の編集長の記事では、住所変更のお願いをしただけなのに、どこかクレーム対応のエンディングのような点がマッチしないという問題がありました。

オペレーター:「ご不明な点はありませんか?」→ここまでは、良いでしょう。
お客様   :「大丈夫です。」
オペレーター:「今後もサービス改善に努めてまいりますので
        今後ともXX会社をどうぞよろしくお願いいたします。
        本日はお電話ありがとうございました。」 

→ “サービス改善” と言われても、別に何も悪いとは思っていないお客様からするとアンマッチです。
よって、この場合、スクリプトにこのフレーズを基本に入れるのはおすすめできません。

別の例です。

オペレーター:「ご案内は以上でございますが、そのほかご不明な点はございませんでしょうか。」
お客様   :「大丈夫です。」
オペレーター:「ありがとうございます。お問い合わせいただきありがとうございました。
        また何かございましたらいつでもお気軽にご連絡くださいませ。
        引き続き○○をよろしくお願いいたします。お電話ありがとうございました。」

いかがでしょうか。一見丁寧で良さそうな感じがするかもしれませんが、これは言葉を重ねすぎています。これでは、お客様もタイミングを逸してお電話を切るに切れません。いくらクロージングトークとはいえ、お客様との対話が大切です。これではオペレーターの演説のように聞こえてしまいます。

オペレーターさんとしては、良いトークをしたいという気持ちがあるからこそのフレーズのはず。お客様に感謝の気持ちを十分に伝えたくて、こうなることはよくあります。

自動モニタリングでも、「クロージングの印象」の項目を入れていますが、検証の結果、盛りすぎは良くないので、バランスが大切であるという指標にしています。自動モニタリングでは、所定のワードを数えて評価します。先ほどの事例だと、以下のようにクロージングの印象に関わるワードが6つもカウントされており、評価としては「多すぎる」という印象です。

「ありがとう」に至っては、クロージングトークの中で3回も出てきます。感謝は言い過ぎるより、心を込めた1度の方がより印象が良いですし、言われたお客様も嬉しいと感じます。

オペレーター:「ご案内は以上でございますが、そのほか①ご不明な点はございませんでしょうか。」
        (不明点確認)
お客様   :「大丈夫です。」
オペレーター:「②ありがとうございます。お問い合わせいただき③ありがとうございました。
        (2回感謝)
        ④また何かございましたらいつでもお気軽にご連絡くださいませ。」
        (不明点があった時に備えた念押し)
        引き続き○○を⑤よろしくお願いいたします。お電話⑥ありがとうございました。」
        (更に感謝)

6回もクロージングフレーズワードを使っています。ここまでくると、同じ言葉を重ねすぎていますので、一度フレーズの言い過ぎが無いかの確認をおすすめします。

お客様のフレーズ量に合わせる

私は、その日の気分や話の内容によって、ものすごく話したくなる日とそうでない日があります。ものすごく話したくなるのは、エピソードがあったときです。そのエピソードは、こちらから突然話すわけにはいかないので、引き出してもらえるとありがたいです。わがままなお客様なのです。

でも、こちらが大したエピソードもなく、さっぱり話しているときには、盛られるとつらいです。逆に、こちらが盛り盛りに話しているときにさっぱり返されると、話したこと自体を後悔して損をした気分になります。あえてお客様がお話くださるときには、必ず理由があります。この絶妙なコミュニケーションがはまると、それは心地よい応対に繋がります。これを奇跡的に捉えるのではなく、プロなのだから、意図的に狙いたいと思います。

スクリプトという楽譜を、お客様に合わせて演奏できる「演奏力」「アレンジ力」を持つことが、トークスキルを磨いた先にある”ゴール”とも言えます。

「引き算の美学」という言葉があるように、引き算にはカッコよさがあります。 演奏も、単に音を重ねてテクニックのみの演奏は感動には至らないのです。

とはいえ、トークスクリプトのフレーズは、センター王道の内容で、センターの色が出て、オペレーターの皆さんの武器の一つだと捉えていますので、引き過ぎは危険です。あくまでも、正確性やわかりやすさなど必要条件が満たされた上でなければなりません。

最初に作るときは、盛っていいと思っています。最初からスッキリ洗練させようと思ってもそううまくはいきません。盛れなければ引けないので、まずは盛り盛りのスクリプトを作ればよいと思うのです。

私は、これまで数多くのトークスクリプトに触れてきましたが、完成して読んでみたら、盛りすぎていたなんてことは結構あるので、どうぞ最初は安心して盛ってください。

でも、引く勇気をお忘れなく。

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詳しい資料は、以下よりダウンロードいただけます。
https://www.bewith.net/gemba-driven/download/entry-130.html


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