イレギュラーとは
コールセンターや事務センターで、まあまあよく使われる「イレギュラー」という言葉。ときどき便利に使われすぎていて違和感を覚えることがある。違和感の正体は何なのか、「イレギュラー」とはいったい何なのかが気になって、日常の「レギュラー」と「イレギュラー」について思いを巡らせてみた。「レギュラーガソリン」の対義語はハイオク?「レギュラー選手」の対義語は補欠?「レギュラー」と「イレギュラー」は対義語のようでいて、対義語ではないのか?さらにわからなくなってしまった。
辞書によると「イレギュラー」の意味は「不規則なこと、変則なこと、またそのさま」。
「いつもは月曜日だけど、今週だけイレギュラーで火曜日」
「本来、当日対応はしないけれど、予想外の事態だからイレギュラーで当日対応する」
辞書通りに使うとこうなる。この使い方に違和感は無く、私も使う。
コールセンターや事務センターでよく使われるのは「イレギュラーフロー」や「イレギュラー手続き」等。「主要なフロー」の対義語のような意味で使われることが多い。実際、当社では「イレギュラー入社」という言葉が社内用語として使われている。毎月数百名のアルバイトスタッフを採用しているので、入社に至るルートはさまざまあり、大多数を占める求人広告経由以外のいくつかの入社ルートのことをまとめて「イレギュラー入社」と呼んでいる。コールセンターや事務センターではこのような使われ方は多く見られ、この使い方は私の中ではギリギリセーフとしている。
イレギュラーの拡大解釈にご用心
しかし注意したいのは「イレギュラー」の拡大解釈が始まり、その連鎖を止められないことである。
例えばこんなことはないだろうか。
「今月のイレギュラー対応は5件ありました。内容は先月のイレギュラー3件と同様です」
ん?これってレギュラーに昇格させるべきでは?でも件数は少ないからいいか。とムズムズしながら1ヶ月が経過。
迎えた次月。「今月はイレギュラーが増えて20件ありまして、そのうち15件は先月や先々月と同じ内容のイレギュラーなのですが、残りの5件は新たなイレギュラーで来月も増えることが想定されます」となってくると、これはもうムズムズでは済まない。ココでレギュラーに昇格させて名前を付けなければ、もうこの先、この対応には名前は付かないかもしれない。これは処理遂行の崩壊の予兆である。
この例のように報告の場があれば、誰かが気付いて指摘することでレギュラーに昇格させられる。しかしこのような報告の場が無いことも多い。優秀なスタッフの「イレギュラーでやっておきますね♪」の言葉に甘えてしまうと、それがいったいどんなイレギュラーなのかを明文化する機会を逃す。次月の「イレギュラー、やっておきますね♪」が同じ内容とも限らない。これがブラックボックス化、属人化の始まりになりうるのである。
名前をつけることの意義~ソシュールの記号論
ブラックボックス化、属人化をさせたくない私は、業務フローやパターンに、とかく名前を付けたがる。そんな私に、優秀な部下が「それはソシュールの記号論ですよ」と教えてくれた。
「ソシュール?はて?」な私であったが、調べてみると、ソシュールは「言語とは差異(区別)のシステムである」と主張している。区別する必要があるから、それを示す単語が生まれる、というわけだ。
例えば。日本では日常的に「姉」と「妹」を別の単語として区別して使う。年齢を気にする文化だから、区別するニーズがあり、年齢が上か下かにより違う単語が存在している。一方、英語圏では姉も妹も「sister」である。年齢が上か下かの意味を含む単語は存在しない。区別したい時だけ「older」や「younger」、「big」や「small」と他の単語を追加して伝える。
ソシュールの記号論的に言っても、業務を適切に運営するには、異なるフローを差別化する必要があるので、特徴を表す異なる名前が付いているべき、と言える。では、適切な名前を付けるには、何に注意したらよいだろうか。
業務フローに名前をつけてみよう
業務フローや業務のパターンに名前を付ける必要性がある時、似ているけれど少し違うものを区別することが多いので、名前を付けるのは実はけっこう苦労する。センスのない名前を付ければ、誤解を招き業務上のミスを誘引しかねない。ではどのようなことに気遣って名前を付けるのが良いだろうか。
●「特徴」を見つけるには全体を知る必要がある
似ているものの中から「特徴」を見つけるには、「全体」を知る必要がある。「ひとつ」だけを眺めていても「特徴」は見えてこない。
例えば、少し前に見頃は過ぎたが、早咲きで知られる河津桜を見に、新宿駅から河津駅(静岡県)まで電車で行くこととし、そのルートに適切な名前を付けてみよう。
調べると次のルートが出てきた。
皆さんは、これらにどんな名前を付けるだろうか。
例えば私はこう名前を付けた。
① 新宿から踊り子ルート
② 東海道線ルート
③ 新幹線ルート
④ 横浜から踊り子ルート
⑤ 小田急ルート
複数ルートを並べると「特徴」が浮かび上がってくる。私の例ではまず「特急踊り子」に目を付け、該当する①と④の差を明確にするために、「どの駅から乗るか」も名前に入れた。②③⑤は長距離で乗っている電車がそのルートを象徴しているので「東海道線」「新幹線」「小田急」をそのまま名前として使い、前後の他の路線には触れないことにした。
●普遍性、不変性がある名前を付ける
消費者目線、ユーザー目線に立つと、こんな名前が、ふと浮かんだ方もいるのではないか。
乗り換え最少ルート
最速ルート
運賃最安ルート
ただしこれらは鉄道会社の都合や、乗る時間帯などによって変化する可能性があるので業務上の名前として使うには適さない。
●重複させないためのAやBもアリといえばアリ
名前は当然、重複してはならない。しかし僅かな特徴の差しかない場合は最後にAやBを付けて区別するのも悪くはない。ムリやり特徴を炙り出すくらいなら、潔くAやBを付けるのが良い。AやBで終わるのは、とても語感が良いので、言いやすく、意外と定着する気がしている。
学生の時、先輩にミカさんがいるという理由で、私の同期は入学後すぐにミカBと呼ばれるようになった。同じ理由で既にハマBという先輩もいた。「同じ名前が2人目だから君はBだよ」ってけっこう雑でヒドいニックネームだなと思うが、なんだか可愛げがあるし、呼びやすいので、本人も気に入って受け入れ、いまでもそう呼ばれている。
●「言いやすい」ものが残る
というわけで、言いやすい名前は強い。意味や意図に忠実な名前を付けても、長かったり難しかったりすると、残念ながらあまり使ってもらえないこともある。
●略される覚悟
長い名前が残る道は、略される覚悟をすることなのかもしれない。長い名称は、日々の運営者によって略して呼ばれる運命にある。名づけ親が「①新宿から踊り子ルート」は「シンオド」かなあ、横浜からなら「ヨコオド」かなあ、なんて想像をしたところで、現場の日々の感覚には勝てない。現実の運営者の視点で、もっと味わいのある愛ある略称が誕生することを楽しみに待つのが良い。
ちなみに私が好きな略語は「ダブチェ」。私の周りの席のメンバーが「ダブルチェック」のことをこう呼びながら仕事をする姿が可愛くて仕方ない。
名前がついた寂しさ、名前をつけない趣
ここまで名前を付けることを肯定することだけを書いてきたが、最後に逆の話もしておこう。
ある人が「昔は、ただただ提案先に良い提案をしたくて、その企業について一生懸命調査して、その企業の未来を考えたりして、それが楽しかったなー」と、懐かしむように言っていた。今はその行動を一般的に「アカウントプラン」と呼んだりする。こういう名前がつくと、世界中の賢いノウハウが一気に集まり、書籍が出たり、コラムで読めたりして、その質を上げるためのヒントをたくさん得られるようになる。それは喜ばしい一方で、「ああ、みんな同じことやっているのか」と、寂しくなったりもする。名前が付いたことが嬉しいのか、寂しいのか、恥ずかしいのか、不思議な感情である。
ミスチルの桜井さんは、聴く人それぞれが、その時の気持ちで、すきに歌詞の意味を受け取って欲しいから、あの曲のタイトルに「名もなき詩」って付けたのかなあ。あいみょんは「今日という日に何と名前を付けようか」って歌ってるけど、「私たちの今日に名前なんて要らないよねー」ってホントは言いたそうな歌詞だなあ、なんてことも思ったりもした。
名前を付けるとは皆のものになるということで、名前を付けないのはずっと自分だけのものにすることなのだなと理解した。
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