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TONIKAKU気づいた ~Very Japanese~ 日本語の奥深さに足元をすくわれる話

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HUMAN

形柳亜紀

2023.06.21

「とにかく明るい安村」が、「TONIKAKU」の名前でイギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」で決勝進出を果たしたことが話題だ。
日本と何一つ芸風を変えずに、世界でもしっかり受け入れられたことはとてもうれしい。

このニュースで話題になったは、ネタの中で、“Don’t warry. I’m wearing.”という一説に対する会場の“pants!”というレスポンスだ。
日本語では、「安心してください、履いてますよ」だけで十分に伝わるが、 “I am wearing pants”という文は英語的には「SVO構文」で、ネイティブにとっては、O(目的語)が必要な他動詞 “wear”に対して、「何を」を意味する目的語が来ない文は不自然なんだなぁと改めて気づかされた。英語というのは「誰に、何を、どうする」という3つがカッチリと構文化されている言語なのだな、と感心してしまった。

同じような気づきはほかにもあった。
英会話のレッスンで、私が以下のような文章を書いたことがある。

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I bought a car last weekend. (私は、先週末に車を買った)
The weather that day was not so good.(その日の天気はよくなかった)
It runs great! (走りは快調)
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この文章はネイティブの講師からすると、“Not clear!” (明瞭ではない)らしい。
ポイントは、上記太字の“It”が何を指しているのかわからない、というのだ。
私の意図としては“It”を“The car”の代名詞として使っているわけだが、“It”を代名詞に使うならば、1つ前の文にthe carが出てこなければ不明瞭であると彼は言う。上記の文章では車の話をした後、天気の話をして、車の話に戻っているから、この“It”は不明瞭で、“The car”にするべき文章であるらしい。

これは日本語と英語の大きな違いだなと思った。
日本語の現代文の問題では、よく「これ」という言葉に下線が引かれ、「文中のこれとは何でしょう」という問題がよく出題される。この「これ」にあたるものは、1つ前の文章に明示的に書いてあることなんて全くなく、文脈から読み取らないといけない。日本語は文脈の言語。その文脈ニュアンスを拾う力が、「国語力」であり、日本語の奥ゆかしさ、面白さのようにも思う。

英会話教室で、講師からこの指摘を受けて、「あー私はとても日本人だな。日本語のあいまいさで英文を書いちゃってるんだな。」と思った。そこで、「“日本人っぽい”って英語でどのように言うの?」と講師に聞いたところ“Very Japanese”と返ってきた。まさかのそのままだった。

Very Japaneseな事象

さて、ここで深刻な悩みを打ち明けさせてもらいたい。自宅で夫に話しかけると、ほぼ毎回無視されるのだ。「ねぇってば!」と何度か話しかけると、決まりごとのように夫が「あ、独り言だと思った」と言う。なんて意地悪なのだろう。まさに夫婦の離婚の危機。なぜ夫は妻の言うことを無視するのか、などと考えていた。
そんなある日。隣の席のコータさんに「このメールなんですけど」と話しかけたら、まさかのコータさん無視が発生!職場で無視なんて、もはやハラスメントじゃん、と思いながら、「コータさん!」とさらに重ねたところ、コータさんも夫と同じように「あ、独り言かと思った」と言う。同じことをほかの部内のメンバーにも伝えたところ、「ずっと独り言を言っているから、どこから話しかけられているのかわからない」「過去に話しかけられたと思って振り返ったら、独り言だった経験もあり」など複数の犯行が浮かびあがってきた。

この事案から、3点がわかった。1つ目は私は、独り言がどうやら多いらしいこと。もう1つは、名前を呼ばずに突然話しかけるらしいこと。3点目は、同僚としては独り言が多いのはいいから、名前を呼んでから話しかけてほしいという要望。
・・・なるほど、また、「Very Japaneseだな」と思った。つまり、名前を呼ばずに話しかけることは「誰に向けて話しているのか」を“Not clear!”にしているのだと。結局この事案においては、離婚の危機でもハラスメントでもなく、それはそれで良かったのかもしれないが家庭だけでなく職場でも人に迷惑をかけているという、別の問題に行き着いた。

Very Japaneseな運用

先日スーパーでも「あいまいすぎる事案=Very Japanese事案」に遭遇した。

最近スーパーのレジ袋に商品を入れる場所に、消毒薬で指先をうるおせ、袋を開けやすくする器具が置かれていることがある。従前は同じ目的で、スポンジやふきんが置いてあったが、不衛生であったので、この器具はとてもいいなと思っていた。
いつものスーパーで、いつも通り、その器具を使おうとしたときに、ふと気づいた。「取り扱い注意」というラベルが張られていることを。以下は現場の写真である。


「取り扱い注意?何だろう」とは頭の片隅では思ったが、深く気にせずに以下の通り利用したところ事件が起こった。


この通り、ボトルが本体から外れてしまったのだ。


「取り扱い注意」ってこういうことだったんだ、とやっと理解できた。
でも、「取り扱い注意」は、Very Japaneseじゃない?と思った。
だって、私は何に注意したらよかったのか。

現場のVery Japanese

さて、センターの現場でもこういうことがないだろうか。

「ロッカーを閉じ込めないでください」
「勤怠をちゃんと管理してください」
「ちゃんと確認してください」

これらが、「どうやって?」というオペレーターからの疑問につながってくれれば、より具体的な説明ができる。では、疑問がないオペレーターが質問をしてくれるだろうか。

コールセンターは昔からダイバーシティ&インクルージョンが実現していた。性別も属性も年齢も経験も様々な人たちが一つの組織としてまとまり、お客様対応を行う。だから、コールセンターには個性的で面白い人たちがたくさんいる。一方で、それぞれの考えで「どうやって?」が解釈されたとき、その個性は裏目に出る。ミスが生まれる、品質にばらつきが出る、生産性が下がる原因になっていく。

ミスが発生すると、「なんでエスカレーションしなかったの?」とオペレーターに注意するSVがいる。それはきっとオペレーターの過去の経験の中で「このようにすればいいのね」と解釈して対処できちゃったから、質問が浮かばなかったのだと思う。質問があったのに、しなかったわけではない。
あいまいな指示は、自由な解釈を生む。解釈の幅が広いのだ。コールセンターで決める運用は誰もが同じように解釈し、同じ基準で遂行されなければならない。そこには幅は全くない。本来であれば、細かい質問がたくさん出ていいはずなのだ。ちゃんと指示ができていれば。

あいまいな指示を出して、間違えて、さらに怒られる。それでは、職場が楽しくなくなってしまう。

多様な人が同じ基準、同じ解釈で働く世界だからこそ、コールセンターでは、Very Japaneseではいけない。

古川真澄さんも、以前この現場ドリブンで書かれていた。
日常は、業務指示にあふれている 意味ある指示と、意味のない指示
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コンタクトセンターにおける「普通」や指示を出す人にとっての「当たり前」を前提に指示を出してはいけないし、自分の感情を伝えればオペレーターがあなたの意を汲んで正しい行動を取ってくれるなどということも期待してはならない。
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はてさて、私も気を付けなければ。

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