最近、感心していることがある。
それは、最近のドラマは、オープニング映像とエンディングの映像がほとんどなくなっていることだ。その事象に気づいたのは、2000年代のドラマをストリーミング配信で見ていた時だ。
ドラマの冒頭10分で犯人に逃げられた、というシーンで、全然関係のないオープニング映像が1分半くらい流れる。曲とドラマの一貫性も分からなければ、映像は街並みとスタッフロールが出るだけ。その映像はいらないので、毎回早送りして見た。
ドラマの終盤、彼氏が親友とキスしているところを見て、買い物袋を落とす衝撃的なシーン。そのあと、急に話の筋と全く関係のない、のどかな音楽とエンディング映像が流れる。これも見る必要がないので、飛ばして次のエピソードを見た。
これが、私が知っているちょっと前までのドラマだったことを思い出したのだ。
一方、最近のドラマは、10分くらいで容疑者が絞り込めたところで、捜査一課長が「お前ら、絶対にホシを逃がすな!」という指示を出したあと、音楽が流れて短いタイトルロールが出る。ほんの数秒だ。以前のオープニング映像と比較するとかなり短いから、CMの一環のように見ることもでき、違和感がない。
そして、ドラマの終盤、事件を解決した主人公がスマホで家族と話しながら大通りを歩いているシーンで、エンディングテーマが流れ始める。これが名曲だったりする。そこに、突然怪しい動きをする車がやってきて「衝突した?」と思った瞬間、音楽が消えて、車のライトと主人公の影の映像の上に、スタッフロールがバンと出て、ドラマは終わる。
昔のドラマのオープニングとエンディング映像を楽しみにしていた視聴者もきっと一定数存在すると思うし、映像を作る人や主題歌を歌う人の喜びもあっただろう。それでも、私は圧倒的に今のドラマに賛成だ。映像がないことでドラマを長く楽しめるし、ドラマの世界観に入りやすい。さらには、制作する側もきっとコストが削減できているだろう。
このような、満たせることと満たせないことを分かった上で、「やめる」という決断は偉大だ。
なぜならば、ものごとは大体、時とともに足されることばかりだからだ。
若い頃は、化粧水と乳液があればOKだった。今では、そこに美容液も追加になったし、目元専用のクリームも追加になっている。
食器もシンクも食器用洗剤で洗っていたはずなのに、気が付いたらシンク用のクエン酸洗剤を使う羽目になった。トイレ掃除は、紙のシートと洗剤と、スタンプみたいな洗剤の3種類を使う。
こうやってアイテム数が増えていく。
時間の経過とともにどこかが物足りなくなったり、何かに不具合が出ることがある。改善というのは、実際には減らされることよりも増やされることが圧倒的に多い。
コンタクトセンターの運営も同じだな、と思うのだ。
足しすぎている電話
先日、住所変更をするのを忘れていたことに気づいて、コールセンターに電話をした。大変丁寧で頑張っているオペレーターであったが、何だか違和感がある。
例えばこういう感じだ。
私:「建物名はコンフォート桜台です」
オペレーター:「コールセンターのコ、和音のン、福岡のフ、オリエンタルのオ、横棒、東京のト、埼玉のサ、クリスマスのク、ライオンのラ、代官山のダ、インドのイですね?」
あまりに長い復唱で、逆に混乱してしまった。
手続きが完了したところで、オペレーターがこう切り出した。
「最後に1点だけお願いがあります。本日の電話についてこのあと自動音声におつなぎいたしますので、フィードバックをいただけますでしょうか」
と言われたので、最後なのだなと思いながら「わかりました」と返した。
もう終わるのだなと思った。
「ありがとうございます。今後手続きに際して何かあればお電話で聞いてもいいですか?」
と言われたので「いいですよ」と返した。もう終わるな、と思った。
「何もなければお電話いたしませんので、その点ご了承くださいませ」
さっき最後って言ったのに、まだ終わらないな?と思ったが「わかりました」と返しながら、もう終わるなと改めて思った。
「ご不明な点はありませんか?」
もうくどいな、と思いながら「大丈夫です」と返した。
「今後もサービス改善に努めてまいりますので、今後ともXX会社をどうぞよろしくお願いいたします。本日はお電話ありがとうございました。」
クロージングも長いなと思いながら、「ありがとうございました」と電話を切った。
この電話応対は、多様なお客様、様々なミス、クレームをカバーするために、ルールをどんどんトッピングしていったセンターの応対そのもののように感じられた。
勝手な解説
この応対について、私が勝手ながら解説をさせていただくと、今回のポイントは4点である。
① 長すぎる復唱
② 表裏の問い
③ くどすぎるクロージング
④ 最後じゃないのに「最後に」
① 長すぎる復唱
コールセンターのコ・・などの復唱は「フォネティックコード」というものを使っている。これは、無線電話で歪や雑音の多い無線電話でも原文を一文字ずつ正しく伝達する目的で生まれたものである。
現代の電話は音がとてもよいので、フォネクティックコードは聞き取りにくい言葉だけに使うという活用で十分だ。むしろすべての言葉に使ってしまうと、逆にわかりにくくなる。
② 表裏の問い
「ありがとうございます。今後手続きに際して何かあればお電話で聞いてもいいですか?」
「何もなければお電話いたしませんので、その点ご了承くださいませ」
お客様は、企業に電話番号を登録しているのだから、何かあれば電話で質問が来る可能性を案内されずとも、想像ができるはずである。
それでもあえてこのような案内を入れる理由は以下のようなことが想像できる。
・過去に「なぜ電話をしてくるのか」というご意見をいただいたことがあった
・「何もなければ~」と付け加えることになったのは「なぜ電話をしてこなかったのか」というご意見があった
すべてのお客様に対してご案内項目として適正か、については改めて検討してもよいかもしれない。
③ くどすぎるクロージング
「ご不明な点はありませんか?」
「今後もサービス改善に努めてまいりますので、今後ともXX会社をどうぞよろしくお願いいたします。本日はお電話ありがとうございました。」
クロージングがとてもくどい。私は住所の変更をしただけなので、もっと簡単に切らせてほしい。
顧客である私がこのコールセンターに問い合わせをする気持ちと、オペレーターのクロージングトークの重みが合わない感じだ。
④ 最後じゃないのに「最後に」
きっとこのセンターは、クロージングが長すぎるので、多くのお客様が終わりだと思って途中で電話を切ったり、切りたそうにするのだろうなと思う。だから、スクリプトの最後のブロック(顧客にとっては最後でもなんでもないところ)で「最後に、というトークのフラグを立てて、お客様に聞いていただけるようにしましょう」なんて、指導をしているのではないかと想像した。
顧客としては「最後に」と言われると、一瞬気を引き締めて話を聞こうと思うが、そこから長いとうんざりしてしまう。
現場の正義
ここまでに説明した①~④は、現場には現場なりの改善努力の結果である。
私のようにこの取り組みを「くどいと思うお客様」もいるし、この取り組みがあったから減らせた不満もあるのだろう。
すべてを満たす対策はきっとない。大事なことは、何かを足せば何かが満たされなくなる。その理解を持ったうえで検討することが大切だ。
もちろんクレームやミスなど大きな衝撃がセンターに生じたとき、対策は必要だ。しかし、その対策が「何も言わないお客様」の満足度を下げているかもしれない。
時には「勇気ある引き算」をする判断が功を奏することもあるのではないか、とドラマを見ていて思ったのである。
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