若い頃、何度かこんな経験をした。
上司に「今日の会議は、私は喋らないから、会議の冒頭から自分でやってみて」と言われる。会議に向けて準備は万全なので、会議冒頭から私が意気揚々と話し始めるものの、明らかに参加者の反応が悪い。ポカーン。「こんなはずじゃないのに」と想像と違う様子に、私がやっと焦りを感じた頃、結局上司が登場する。
「皆さんスミマセン、本日の会議の前提の部分を簡単に私からお伝します。実はこれは~」、参加者の視線は上司に移り、安堵の表情に変わっていく。結局、一人ではやり遂げられず、落ち込んだ。この手の失敗は一度ではなく、何度もした。私の部下も、何人も何度も、似たような失敗を、今もしている。だから、きっと、皆さんも、このようなシーンに出くわしたことが、あるのではないだろうか。
なぜポカーンとさせてしまうか。説明も資料も悪くない、言っていることも間違っていない。でも、なぜだか、ふわっと浮いて、さらっと流れて、響かない。いったい何がいけないのだろうか。
ふわっと浮かない、さらっと流れない、考えや想いの伝え方
自分のこと(何をどのように話すか)は準備万全であっても、相手のこと(相手が知っていること、知らないこと、知りたいこと、立場等)に配慮できていないと、このようなことが起こりやすいのではないかと考えた。
これは先程、例に挙げた会議の冒頭のシーンに限ったことではない。
例えば
・自己紹介
・面接
・報告
・会議
・提案
・スピーチ
等、自分の考えや想いを伝えることが求められる場面があてはまる。
では相手のことに配慮するとは、具体的にはどうしたら良いだろうか。私がいつも気を付けているものをまとめると、こうなる。
① 相手が知っていることと、知らないことを把握(推測)する
② 相手が興味のあること、興味の無いことを推測する
↓その結果
③ 伝える情報量をチューニングする
④ 抽象度をチューニングする
ステップに書き出すほどでもないし、実際は、①と②は同時に、②と④はセットで等と考えたら、全部をほぼ同時で考えていて、私もそれほど整理して考えることはできていない。とはいえ、これらを意識することで、相手との距離感が縮まり、ふわっと浮いたり、さらっと流れたりすることが減り、相手の反応が良くなったという実感を得てきた。
それぞれのステップについて、もう少し考えてみよう。
① 相手が知っていることと、知らないことを把握(推測)する
まず大切なことは、「私(たち)がやっていること、私(たち)が考えていること」を、他人・他部門・他社は、それほど知らないと認識すること、だと思う。なんだか少し寂しい気もするけれど、人はみな自分が主役なので、他人のことはそれほど知らないことを前提にするのである。
そして、「私(たち)が知らなくて、相手が知っていること」がある、という点にも気を付けなくてはいけない。目前の提案や報告にどっぷりつかっていると、その事柄について、自分が一番詳しい気持ちになるが、そういう時ほど、実は視野が狭くなっていることを忘れてはいけない。考えも知識も深く深く潜ってしまっていることがある。聞き手の方が広い視野と気持ちの余裕を持っている、という前提で臨もう。
② 相手が興味のあること、興味の無いことを推測する
次に気を付けたいのは、「自分が伝えたいこと=相手が興味のあること」ではない、大概すれ違う、ということである。なんだか先程から悲しいことばかり言っているけれど、経験上、そう思う。
興味のあることは、立場(役職・部門)によって、思いのほか異なることを認識した方が良い。ただし主観を取り除き、「異なる」視点を想像するのは難しい。なにか軸を持って考えるとわかりやすい。
例えば、相手が興味を持つのは、
-過去か現在か未来か
-結論かプロセスか
-目的やゴールかフローや手順か
-大局で捉えたいのか細部まで知りたいのか
等。
同じ事柄の提案、報告をするのであっても、伝える相手が誰なのか、目的が何なのかによって、興味の方向性は異なる。そしてそれを推測することは難しい。日々の最新情報や業界動向に目を向け知識を豊富に持つことは大きな助けになるだろう。そして、どんな小さな機会であっても、「自分とは真逆」「あえて反対意見」などの異なる目線で、推測・妄想することを続けていくと、その経験がモノを言い、大きいチャンスで失敗しない力になっていくだろう。
③ 伝える情報量をチューニングする
ステップどおり①と②を意識すると、「あれも言おう、これも言おう」と、伝えたい情報が、だいたいにおいて増えてしまう。だからここで言う「チューニング」とは、減らすことと考えて良い。
情報も、服や体重と同じ。一度増やすと減らすことの方が実は難しい。良かれと思って増やしたとて、聞く側の時間も集中力も無限ではない。「せっかく資料を作ったから入れておこう」ではなく、「ときめかないなら捨てる」のように、「その日の目的に合っていなければ捨てる」覚悟をすべきである。人が本当に継続して集中できるのは15分と言われている。15分で全てを伝えろというのは難しいこともあるだろうが、なるべく短い時間で、メリハリをつけて伝えられるに越したことはない。
④ 抽象度をチューニングする
相手の興味に合わせて抽象度をチューニングするとはどういうことか。難しそうに感じるが、具体例で見てみると、それほど難しくない。
例えば、
-社長にオペレータの作業手順をひとつずつ説明する必要はない
-しかし事故の再発防止策の説明であれば手順こそが重要な時もある
-オペレータに目的や背景を伝えることも重要だが、作業手順をじっくり説明する必要がある
等。冷静に考えれば、とても簡単なことである。
でも、なぜかこの選択を間違えてしまう。私は今でも時々間違える。相手の目線に変えることは想像以上に難しいのである。そうとう強く意識しないと、資料や言葉には反映されないのかもしれない。
さらに、落とし穴もある。よくできた既存の資料に気を付けないといけない。「いい資料があった、ラッキー♪」と手を出すと、それは落とし穴。その資料が「いつ、誰のために、何を伝えるために作られたのか」を見極めないといけない。その結果、そのまま使うか、はたまた使わないか、チューニングすべきか、吟味すべきである。
自己紹介で全てが体現される
ここまで4つのステップで説明してきた。
(再掲)
① 相手が知っていることと、知らないことを把握(推測)する
② 相手が興味のあること、興味の無いことを推測する
↓その結果
③ 伝える情報量をチューニングする
④ 抽象度をチューニングする
これを短時間で試されるのが、「自己紹介」である。さぁ、色々想像して、考えてみてほしい。情報量や抽象度のチューニングはできるだろうか。
・社内研修で初めて会う他部門の人の前での自己紹介
・クライアント企業に対して担当交替の挨拶時の自己紹介
・あなたがメインスピーカーとして登壇するウェビナーでの自己紹介
・婚約相手の家族と初めて会う時の自己紹介
・ママ友、パパ友が初めて集うバーベューでの自己紹介
違いを出せるだろうか。4つのステップを意識すると、その場にあった、多くの人に理解してもらえる、共感を得られる自己紹介ができることだろう。
それぞれのシーンで違いを出せることは素晴らしい。しかし、最後にこれを言っては元も子も無いが、最強の自己紹介とは、なにひとつチューニングすることなく、どんな場面でも、どんな人にも、魅力的に伝わるテッパンの自己紹介かもしれない。でも、それは最強である分、最高に難しいこととも言える。
目的は空気を読めとか、空気に馴染め、ということではない。さらっと流されず、今よりも響く伝え方をしたければ、相手に合わせてチューニングしてみよう。
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