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シニア採用に立ち塞がる入社2ヶ月間の壁

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HUMAN

sasaki

2023.01.25

昨年10月に現場ドリブンに掲載した「シニア採用に向けた取り組み」。コールセンターにおけるシニア世代のパフォーマンスは決して負けていない事を実例と数字を交えて綴りました。記事を公開してからしばらくして、とあるコールセンターの管理者の方から「記事を読んでシニア採用をやってみようと思います」とうれしい声をいただきました。決断に至るまでには紆余曲折あったようですが、最初の一歩を踏み出してくれた事に感謝すると共に、私も改めて勇気が湧いてきました。

言わずもがなの日本の高齢化問題。この問題と向き合い始めた企業はシニア世代の採用を積極的に取り入れつつあります。それを肌で感じたのが2022年の師走。首都圏エリアでの100名規模の採用に携わった私は人材派遣会社の採用担当者の方々と意見交換の場を持ちました。その中で印象的だった話題がシニア層の動向についてです。

11月くらいから大規模な求人を行うコールセンターやBPOセンターが増加。それにより人材が枯渇し、時給は高騰。さらに各社が50代、60代の採用に向けて一気に舵を切っているという声が複数寄せられました。それだけでも十分に焦りを感じましたが、シニア層の中でも「他社に採用が決まった」「もっとよい条件の企業に採用された」という理由から辞退する方が増えてきたというではありませんか... 採用する側にとって、これはもはや「危機」です。

人手不足解消の打ち手として各社がシニア層の採用にアクセルを踏んだのは間違いなさそうです。一時的な状況という見方もありますが、シニア層も採用しにくい時代が続いたら... 考えただけでも恐ろしい。時代に取り残されないように、私たちはシニア層の積極的な採用に着手する必要がある。新年早々決意を新たにしました。

しかし、シニア層を採用すれば万事解決かと言えば、決して、そう簡単にはいなかいでしょう。せっかく採用した方々が思うように活躍出来ず、早期に退職してしまうケースは実は多いのです。冒頭のコールセンター管理者もまさに同じような悩みを抱えていました。

実態はどうなのか。いつものように私が担当しているコールセンターにおいて、2021年に入社したオペレーターを年代別に、入社後6ヶ月間の退職率を月毎に算出してみました。そうしたところ、50代~60代のオペレーターは入社して3ヶ月目以降は安定して2%未満の低い退職率で推移していました。ところが入社直後の1ヶ月目の退職率は5.1%、2ヶ月目に至っては6.6%強と他の世代と比べて高い退職率になっていたのです。


●入社6ヶ月間の年代別退職率(2021年入社)


入社して2ヶ月間と言えば、研修についていけなくなったり、新しい職場環境や人間関係に馴染めなかったり、実務に入ってから難易度の高さを肌で感じたり... 退職に繋がるリスクはたくさん潜んでいます。これは全ての年代に共通して言える事ですが、シニア層はより敏感に反応して、この間に退職に繋がるリスクが潜んでいる事がこの数字から読み解けます。まさにシニア層の前に立ち塞がる入社2ヶ月間の壁です。


●入社1年後の年代別在籍率(2021年入社)


でも裏を返せば、この2ヶ月間さえ乗り切れば、その後の安定感は抜群。3ヶ月目以降の退職率は一気に低下することは先ほどのデータからも明らかです。さらに2021年に入社したオペレーターの1年後の在籍率を見てみると50代と60代は他の年代と比較しても高い在籍率を誇っています

つまり、入社直後の2ヶ月間のフォローを適切に行う事が、シニア層が継続して勤務出来るかどうかのカギと言っていいでしょう。それでは一体どういった部分をフォローし、何を変えていけばいいのか。私が担当していた健康食品のコールセンターでの体験も踏まえて考えてみました。

研修時間と研修期間の考え方

現在のコールセンター・BPOセンターにおけるオペレーターの仕事は多岐に渡り、複雑化しています。そのため座学研修も1日8時間×5日の40時間、×10日間の80時間など長期間に及ぶ業務が多数あります。この長期間の研修こそが最初の関門。研修講師を担当したSVの方なら「詰め込み型の研修についていけなかった」という退職者の声を耳にした事があるのではないでしょうか。年齢を重ねる毎に集中力が持続する時間は徐々に短くなっていくもの。この点を考慮して1日の研修時間を短くして、その分研修の期間を長めに取る方法は有効です。

例えば、1日8時間×5日間の40時間研修があるとします。この1日8時間を5時間に短縮。短縮した分、5日間だった研修期間を8日間に伸ばしてトータルの研修時間を担保します。短縮した1日3時間分は負担を軽減するためお休みにするのも手ですが、復習や質疑応答の時間に充てたり、研修の進行速度をスローにする事で、シニア層の業務習得を支援する事も可能になります。

相談・質問しやすい環境作り

1日の研修時間を短縮して、質疑応答の時間は増やしたものの、シニア層が質問しにくい雰囲気になっていたら元も子もありません。ある企業がシニア層に対して行ったアンケートの中で、アルバイトを始めてから苦労したポイントを聞いてみたところ、実に41%の方が「仕事を教えてほしい時に聞ける人がいない」と回答していました。質問を受ける時間と場所を作る事はもちろん、シニアの方が話やすい空気を作る事が早期退職抑止に繋がるのではないでしょうか。

私が携わっていたセンターでは研修講師やOJTトレーナーに、なるべく同世代の方を充てる事にしていました。シニアに限らず、人間誰しも共通項、共通の話題があった方が打ち解けやすくなるもの。同世代の講師の方から「私も全然覚えられなくて...」「気にしないで質問してくださいね」と声をかける事で、自然と質問しやすい雰囲気が生まれて、質疑応答は少しずつ活発になってきました。

シニア層への接し方

組織の構成上、どうしても同世代の講師やトレーナーを充てられないという事もあるでしょう。その際に少し気を付けてほしいのが接し方です。先ほど紹介したシニア向けのアンケートの中でも、人間関係で苦労した事として「年下のスタッフから敬われない」「上司が若い人ばかりをひいきする」という意見が挙がっていました。やはり年の差のある上司や同僚との関係に悩みを抱えている方は一定数確実にいるようです。

こういう意見を聞くと、何か特別な事をやらなければならないように思えますが、決して構える必要はありません。シニア層の中には逆に「腫物にされるように接されるのが嫌だった」という意見も多く挙がっているのです。そのため、特別視するのではなく、しっかりと敬語を使い、話を最後まで聴いて頭ごなしに否定しない。ごくごく基本的な立ち振る舞いを徹底する事。そして人生の先輩に対して敬意を表しつつ、他のオペレーターと分け隔てなく公平に接していく事が大切なのです。

このようにシニア層が働きやすい環境作りについて書いてきましたが、コールセンターという性質上、環境の整備は私たちSVだけで実現するにはどうしても限界があります。研修を長期化する事やカリキュラムを変更する事は、コールセンターを委託しているクライアント企業の理解を得て、賛同していただく必要があります。場合によっては人件費が増える可能性もあるでしょう。そして実際に勤務するシニア層の方々も根気強く習得する必要だってあります。誰か1人が努力するのではなく、全員が一歩ずつ前に踏み出す。その先にシニア層が2ヶ月間の壁を乗り越えて、コールセンターで活躍する未来が待っている。それぞれが歩み寄る事できっと実現させましょう。

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