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無敵フレーズ「ありがとう」の、グレーゾーン

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HUMAN

sato

2020.07.14

「ありがとう」は言いたいし、言われたい

「ありがとうと言われる接客」
「ありがとうの極意」
「ありがとうのために」

このような類の本は多く出版されていて、接客業や営業に携わる人であれば一度は手に取ったことがあるかもしれません。
私もコールセンターで品質管理を担当することになった15年前からたくさんの本に触れ、「そうそう、ありがとうって大事!」と気持ちを高める良い教材として取り入れてきました。

仕事以外の場面でも「ありがとう」と共に過ごしてきました。
私は、食事の時間をこよなく愛し、週末は外食に出かけて接客を受ける体験も大好きなのですが、消費者としての私も、こちらから「ありがとう」を伝え、また店員さんからの「ありがとうございます」の言葉ももらう、そのコミュニケーションに居心地の良さを覚えます。

顧客体験の多くを、この「ありがとう」で判断してきたと言っても過言ではありませんし、一般的にも「ありがとう」の言葉は気持ちの良い言葉の1つだと思います。そのため、この「ありがとう」を軸に様々なことを展開しています。

「ありがとう」GETキャンペーン

百貨店などのサービス業で、従業員がお客様からの「ありがとう」を集めるCSキャンペーンやアンケートでお客様に感謝を書いてもらう施策など、様々な「ありがとう」GETキャンペーンが存在します。
私は良い接客を受けた時には、企業へ積極的にフィードバックしたいと思い、アンケートに協力するようにしています。

サービスの性質として、「無形性」というものがあります。
つまりは、サービスには形がないので、良し悪しを測ることができません。
そのため、「サービスの有形性」(=つまりは、見える化する)を高めるのが代表的な方法です。
上記のような「ありがとう」GETキャンペーンはお客様からの「ありがとう数」をカウントすることで、接客の品質を見える化する有効な策と言えます。

同じような施策はコールセンターでも実施されており、お客様からの「ありがとう」は品質のバロメーターとして広く認識されてきました。

「ありがとう」の数を数えてみた

コールセンターは、数ある接客業の中でも、サービスの見える化が比較的一般化している業種です。

要因の一つに、電話応対は音だけであり、録音してしまえばサービス内容を再生できるという特性があると思います。
古くからコールセンターは、オペレーターの応対の録音を人が聴き、その内容を決められた基準で評価し数値化しています。
電話応対の要素を分解し、それぞれに対して点数をつけるのです。

しかし、人が行うモニタリングは、多くの工数がかかります。
適切な評価をするためには、最低3回録音を聴く必要があります。1本の通話時間が5分だとしたら聴くだけでも15分はかかります。
更に、部分的に指導ポイントを書き出したり、聴き直したりしながら、評価に落とし込んでいくには、30分以上の時間を要することも珍しくありません。

そこで、1年ほど前から、「モニタリング自動化」の検討を始めました。

「自動化」とは、録音した音声を、音声認識技術を使ってテキスト化し、話ぐせや言葉遣い、相づちなどの特定単語の発話回数を測定・集計し、評価する取り組みです。
まだできることは限られているのですが、「人」より「自動化」が得意なことのひとつが”単語を数える”ことです。人が行うより漏れがありません。

お客様からいただく「ありがとう」を数えることで、オペレーターへの評価や指導に活用できると考え、「ありがとう」のカウントを試みました。

そうすれば、オペレーターの評価だけでなく、お客様の応対に対する満足度も容易に測れるのではないかと考えました。

「ありがとう」カウントの結果

対象者50名のオペレーターの「ありがとう」の数を集計しました。コールセンター全体で、「ありがとう」をいただく平均数は、1応対あたり0.8回、という結果でした。


お客様からの「ありがとう」数平均
0.8回

0.8回という平均数は、すべてのお問い合わせが電話で解決できるわけではない中で、8割方のお客様からお礼をもらっているということです。
これまで応対をモニタリングしてきた経験と重ね合わせると、妥当な数値であると感じました。

そして、オペレーターごとの「ありがとう」数を多い順に並べてみると、トップは1以上、最下位は0.6台という結果でした。

トップのAさんは1.084回ですので、1本の電話で必ず「ありがとう」と言っていただいていることが分かります。
月の平均通話は100件以上で多くのイレギュラーコールもある中で1以上を保てていることは、高い水準であると想像できます。
逆に最下位のZさんは0.613回ですので、半分程度の応対でしかお礼を言われていません。

オペレーターごとのこの集計結果を指導に活かそうと思い、上位2名、下位2名の応対をランダムに5件ずつ、検証のためのモニタリングをしてみました。

おそらく、「ありがとう」をいただけている数が多いオペレーターの応対は優れているだろうと考えて、、。

結果下記の通りです。


そうです、私の期待は見事に裏切られました。
実際に上位のオペレーターは、確かに毎回「ありがとう」と言ってもらえていましたが、そこには大きな違和感があるのです。

(応対例)
オペレーター:「それでは、説明書をご覧いただきながらご案内いたします。もう一度機器を使う前に説明書を読みながら操作していただくと、できると思います。」

お客様   :「はいはい、ありがとうございます」 (心の声←「はいはい。もうわかりましたよ」
 
オペレーター:「はい、可能な限りお電話でご案内いたしますと」

お客様   :「はい、ありがとうございます」  (心の声←「説明書を見るから、もういいよ」

お客様からの「ありがとう」が感謝の意味合いではなく、要するにもう話に飽きて切り上げたくてたまらない時に発していた言葉だったのです。

確かに、中には気持ちのこもっていない「ありがとう」の応対もあることはこれまでの経験からわかっていました。ただ、それはイレギュラーケースで、誤差程度のものと思っていました。

しかし結果は、何度聴いても、「ありがとう」と言われる回数の多い傾向にあるオペレーターの応対は傾向として「切り上げたくて、ありがとう」が多い、という状況は覆ることはありませんでした。
つまりは「ありがとう」と「応対品質」は比例関係ではない、ということが立証されたということです。

オペレーターからお客様に伝える「ありがとう」は、差こそあれ伝えるべきですが、お客様から言われすぎている場合は、注意しなければならなりません。

当初、モニタリング自動化の項目に、お客様からの「ありがとう」は入れたいと考えていましたが、検証すると期待とは裏腹に、印象の良くない評価が出ることがわかったため、評価項目に入れるのを断念しました。

日常にあふれる「ありがとう」

では、「ありがとう」とは、一体何なのでしょうか。

私は、上記の検証を終えてから、「ありがとう」に対して妙に敏感になり、これまで当たり前のように受け入れてきた日常の「ありがとう」にさえ、一呼吸おいて考えるようになりました。

例えば、LINEでの会話を思い出しても、私は「ありがとう」をよく使います。購入するスタンプには、ほとんど「ありがとう」が含まれているし、「ありがとう」だけを集めたスタンプも持っています。
「世界各国のありがとうシリーズ」のスタンプまで集めていたくらいです。


これは私だけに限ったことではないと思います。

周りの同僚に聞いてみても、「ありがとう」スタンプ比率は割と多めです。
ここまで「ありがとう」が多く利用されるのは、会話で使いやすいというのもありますし、最後は「ありがとう」で終われる気持ちの良さ(それを便利と言ってしまえばそれまでですが・・)があります。
もちろん心からの「ありがとう」のつもりですし、相手からもらう「ありがとう」も良い意味だと私は信じています。

ですが、もしかしたら中には話の切り上げのために使われていた可能性もあるのかも・・・と想像すると怖くなりますね。

それでも「ありがとう」を追求したい

考えるべきは、これからの「ありがとう」の在り方です。

今回は、「ありがとう」が無敵ではない場面をご紹介しましたが、やはり万人にとって“良い言葉”であることは間違いありません。
文字をただただカウントした今回の事例では意外な結果でしたが、この先、感情分析などを導入することで、本心の「ありがとう」だけに目を向けることもできると信じています。

そしてよく考えたら、「ありがとう」に限らず、本来の意味として使われていないシーンの言葉はたくさんありそうです。言葉の本質を捉えることの大切さに気づくことができました。

皆さまの、その“ありがとう”、大丈夫ですか?

コールセンター向け品質改善プラットフォーム Qua-cle(クオクル)を作りました。
「Qua-cle(クオクル)」は、コンタクトセンターにおける応対品質の課題を解決するために必要な、「学び」・「トレーニング」・「フィードバック」の一連のサイクルを実現する、コールセンター向け品質改善プラットフォームです。
eラーニングから学ぶだけではなく、フィードバックのサイクルまでを組み込んだことが最大の特徴です。
モニタリング自動評価(応対のSTTデータによる評価)機能では、日常の自分の成果を月に一度、確認することができるため、オペレーターにとって大きな成長機会に繋がります。

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