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「図解」って難しい。文章が図になるまで ~作業工程と脳内処理を、うれしはずかし全公開~

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HUMAN

仲江洋美

2021.11.17

突然ですが。これは、私の〈休日のできごと〉です。

朝起きて、気が向いたから美術館に出かけることにした。10時40分に家を出て、歩いて20分で美術館に到着。いまどきの美術館は予約なしでは入れない。当日券は最短でも14時だと案内され、覚悟はしていたので14時分を購入。あと3時間かー。カフェで過ごすには長いので、近辺で2つの用事を済ますことにする。1つめは知人へのお祝いの購入。目的地まで少し距離はあるが、天気も良いので電車には乗らず、美術館から歩くこと20分。11時30分に雑貨屋に到着。品を選び、名入れをしてもらうことにした。受け取りは30分後の12時30分以降。またもや待ち時間。そして2つめの目的地へ向かう。歩いて10分、以前から気になっていたイヤホン専門店に到着。聴き比べを充分に楽しみ、イヤホンを購入して大満足。どうやらお店に1時間もいたようだ。13時10分、イヤホン屋を出て、13時20分には雑貨店に戻り、5分程で贈り物を受け取る。さぁいよいよ美術館に戻ろう。14時前には着きそうだ。

この面白いような面白くないような〈休日のできごと〉を、「図解」を入れながらパワポ1枚にまとめなさいと言われたら、あなたはどんな資料を作りますか。

私だったら、まずぱっと頭に浮かんだのは「スケジュール表」みたいな資料。でもそれを「正解」としてパワポを作ると「いったいこの資料で何を伝えたいの?」という目的不明のつまらない資料になる。第一案だけでは良い資料にはならない。

では、どうするか。
まずは「この文章では、何を伝えたいか」という目的を整理することから始める。例えば、

  1. 時刻や所要時間を正確に伝えたい
  2. たくさん歩いたことを強調したい
  3. 2つの待ち時間の構造を伝えたい
  4. 背景や理由や気持ちの変化も伝えたい  など。

この中から、目的にもっとも合うパターンを選び、手書きで「図解」のイメージを膨らませる。手書きでなんとなく書けたらパワポで作り始める。私の場合、手書きで書けない図は、パワポでも書けない。だから先に手書きで書いてから始める。

仕事の時間は有限だ。だから先に選択肢を挙げ、1つを選び1つを作る。4パターンをキレイに仕上げて上司に見せれば、褒められるどころか「暇なの?」と皮肉を言われるのが現実社会だ。だから、4パターンの「図解」の違いで、どれほど伝わり方が異なるのかを比較をする場面は、実はそう多くない。

だから、やってみることにします。
4パターンぜんぶ作ってみます。
「文」が「図」になるまで、作業工程も脳内処理も、うれしはずかし大公開です。

①    時刻や所要時間を正確に伝えたい

パワポと立ち向かう前、私は、エクセルでの情報整理から始めることが多い。まずは、度々登場する時刻と所要時間のつじつまが本当に合っているのかが気になるので、正確にスケジュールを把握することから始めよう。
整理してみると、スケジュールは下の図1であることが判明した。つじつまは合っている。

が、このまとめ方は実につまらなかった。「出発」と「到着」ばかりが目立ち、図解の要素が何も見えてこない。だから移動以外の要素である「どこで何をしていたのか」が目立つように、図2にまとめ直す。(※本文には無い美術館到着以降~家に到着するまでの内容も書き足している)


図2で徒歩をグレーにすると、「場所」と「行動」が白く浮かび上がり、図の構成がぼんやり見えてきた。そして私の頭には「こんな図がいいんじゃないか」というアイデアが浮かび出す。

  • 「行動」と「場所」を四角形で示して、徒歩を矢印にする。行動の四角形同士を矢印で繋ぐ。
  • 四角の幅や高さ、矢印の長さで、滞在時間や移動時間を示すと、視覚効果が高まる。
  • 上から下へ縦に配置するよりも、左から右へ横に配置する方が、徒歩の雰囲気が出るかもしれない。
  • 並べる要素が多いので、横の方がレイアウトとの相性も良さそうだ。

ここで、パワーポイントを開く。
「場所」と「行動」の四角形を作り、「徒歩」の矢印で繫げる。四角形や矢印は「所要時間10分」を「1センチ」にして作ることで時間の長さを示す。右クリックで「図の書式設定」を開き、幅の欄に数字を入れればいい。面倒に思えるかもしれないが、数字を入れればいいので、実はかえってラクとも言える。


作ってみると、この日の行動のうち「イヤホン専門店」にいた時間の長さに、我が事ながら驚く。こうして図にしたら見えてくることがあるから面白い。
図解はできたが、これではまだ情報が不足しているし、味気ないから、少し要素を加えよう。

  • 到着時間を左上に、出発時間を右下に、徒歩時間を矢印付近に追加。数字のフォントで少し遊んで休日感を出す。
  • 場所と徒歩のアイコンを追加してビジュアル強化。メイン情報の邪魔にならないよう、小さいサイズが良い。

これでモノクロ版が完成。


色もつけよう。(色選びについては前回記事「パワポの色選びはアートじゃない、サイエンスだ。にてご確認を。)


②    たくさん歩いたことを強調したい

この日はよく歩いた。体調も機嫌も天候も三拍子そろって良かったので、電車にもバスにも乗らず、珍しくよく歩いた。では「歩いた」ことを主役にしたら、どんな図解ができるだろうか。

再びエクセル。歩いた時間と各施設にいた時間の足し算をして比率を出して円グラフにする。それが下の図3だが、このデータだけでは「この日は珍しくよく歩いた」感じは伝わらない。それを際立たせるならば比較データが必要だ。例えばこれが土曜日だとした場合、同じ曜日のデータを収集し、図4のように棒グラフで比べれば、この日の頑張りに目がいく。


このまま貼り付けたら、それなりの資料になりそうだ。この日、訪れた順番を追記して、パワポ1枚が完成。


③    2つの待ち時間の構造を伝えたい

この日の行動は無計画にも思える。美術館の予約は前日までに済ませておけばよかったし、お祝いの品だってネットか電話で先に伝えておけば、行ったり来たりする必要は無かった。さて、ではこの日のこの特徴的な巡り方をどう表現しようか。

図解の第一歩は手書きの落書きが良い。図5は、けっこうすんなりと浮かんだ。既に登場済みの図に「入れ子構造」の説明を加えたもの。
これでも良いが、もうちょっと違う表現の案も欲しい。できれば1案で決めず、2~3案から選びたい。でもすぐには浮かばない。こういう時は気分転換に、日を変えたり、場所を変えたり、私の場合は歯磨きをすると良い。

図6は、その日の夜、ベッドに入って「ふー」となった瞬間、ぽっと湧いてきた。まさに三上(馬上・枕上・厠上)で良いアイデアが浮かんだ例である。


図5を清書してみたら下図のようになった。実は「16時に宅配便が届くので、それまでに家に帰らなくてはいけない」という条件もあったから3重構造になって、この日のスケジュール制限の多さを図で表現できた。


次に図6を清書した。家を含めて訪問先は4箇所なので、4つの四角形を等分に配置した。ここまでの8工程の図に比べると全体がスッキリして見える。図5が「スケジュールに制限がある」窮屈な感じに対して、図6は堂々としていて「計画的にUターンで動いた日」に見える。同じことを伝えているのに、イメージがまるで違う。


④    背景や理由や気持ちの変化も伝えたい

ここまでは「図解」っぽさにこだわり、背景や気持ちなどの記載をあえて排除してきたが、最後の案は、冒頭の文章の雰囲気を残した。


けっきょくは「全部載せ」にはなるけれど

どのパターンがお好みでしたか。
どれが正解だと思いますか。

情報に誤りがないのであれば、全て「正解」だ。でも、これら4パターンとも、まぁまぁ情報をそぎ落としているから、誰かに見てもらうと、「このパターンにはあの情報が載っていない、こっちのパターンにはあの情報も載っていない」となって、結局「全部載せ」になる可能性はあるが、でも「図解」のベースを何にするかによって、できあがりはだいぶ異なることは、4パターンの比較でご納得いただけたのではないだろうか。

それでは、皆様。
まずは何パターンか落書きすることから
「図解」を始めてみてください。

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