イベントか プロジェクトか
人生には、たくさんのイベントがあります。入学式、運動会、学芸会、修学旅行、卒業式。さらに大人になってからも、入社式、社員総会など会社のイベントもあれば、結婚式、マイホーム建築などプライベートでもイベントは多く存在します。
これらの人生イベントの多くは、一参加者として関わることが多いでしょう。特に学生の時などは誰かが作り出してくれたイベントにも関わらず、ただただ主役として登場し、そのイベント運営の大変さなどあまり感じずにいるのです。
ただし大人になってくると、その大変さを思い知ります。同じイベントでも、主催者側に回ることが増えてくるからです。代表的なのは結婚式かもしれません。初めてのイベント主催者側になり、華々しい印象とは異なり、裏では初めてのイベント主催にてんやわんやな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
それでもこれらのイベントにおいて大失敗することはほぼありません。それは「プロジェクトマネージャー」がしっかりいるからに他なりません。学校行事なら学校の先生、会社行事なら総務などの運営事務局、結婚式ならプランナー、新居建築なら住宅メーカー担当など、マネジメントする側がプロとして関わってくれているから成り立つのです。
ここで突然「プロジェクト」という言葉を用いましたが、「イベント」との違いは何でしょうか。簡単に言えば、「イベント」はその出来事そのものが主役と言えるのに対し、「プロジェクト」はそのゴールまでの道筋や期間の活動すべてを示すと言えるでしょう。主催者は必ず「プロジェクト」化し、推進していくことになるのです。
つまり「イベント」と捉えているうちはお客様状態、「プロジェクト」と捉えているものは自分が主体的に活動していると捉えることが出来そうです。
さてさて、ここからは仕事に目を向けてみます。仕事においては逆に「プロジェクト」だらけになることは上記の整理からも明らかです。クライアントやチーム、会社の「イベント」は、派手であるとは限りません。システムの入れ替え、オペレーション変更、製品リリース、様々なイベントがあります。そこに向けてプロジェクトを推進するのです。
私のいるコールセンター業界であれば、「新規コールセンターの構築」が代表例かもしれません。その他にも、「新教育体系の企画と実施」や「システムリプレイス」といった運用の中でもプロジェクトに関わることがあります。
多くの人がここで初めてプロジェクトマネージャーとしてセンター運用開始までの構築作業を進めていきます。
しかし、プロジェクトマネージャーは、経験値を積みにくく初回は誰もが苦労し失敗し学んでいくことが多いように思います。
最初に挙げた「イベント」に何も考えずに参加していた時のような期待感と満足感・安心感を、私たちは「プロジェクト」運営側として、きちんと提供できているのでしょうか。
今回は、プロジェクトマネジメントをセンスに頼らず成功に導くためのヒントを見ていきたいと思います。
正しいプロジェクト化
まずは「プロジェクト」の定義をしっかり持つことが大切です。「イベント」と「プロジェクト」の違いは、先ほどご紹介した通りですが、誰もが「大きな仕事」と捉えている際には、「プロジェクト」化して管理することが出来ます。
一方「日常業務」と「プロジェクト」の違いは意外に難しい所です。「いつもやっているから」と軽んじて流れで仕事を進めていたら、実はとんでもない失敗をしてしまう例もあります。
例えば、利用システムのアップデートを例にして考えてみます。オペレーターさんの日常的に使うシステムがアップデートされることを知った際の最初の判断の違いで、当日の影響度が全く変わってくることが分かります。
このように、多くのユーザー・メンバーへの影響が大きい場合、その影響度がプラスでもマイナスでも、メンバーにとっては一大イベントです。そう捉え、メンバーにとってのイベントがストレスなく滞りなく運べるように整えるのが、プロジェクトなのです。大きくても小さくてもしっかりプロジェクトとして捉え判断することはまずは大切な最初の一歩です。
WBSだけがプロジェクトマネジメントのコツではない
では、上手くプロジェクト化できたとして、そのプロジェクトを進める上で大切なのは何でしょうか。
私自身、いくつかのプロジェクトを経験してきましたが、その際やはり意識していたのはWBS(Work Breakdown Structure)と言われる作業分解図と、メンバーや関係者と共有する課題管理表です。WBSを頼りに仕事のスケジュール進捗を管理し、課題管理表で致命的なエラーを解消していくことで、遅滞なくプロジェクトを進めることに注力してきました。
上記2つは、タスク・課題を網羅的に洗い出せる点、それがゴールとなる地点までスケジュールで管理できる点が良い所です。
しかし、このWBSの管理と更新、意外に手間もかかり面倒なので、プロジェクトマネジメントが、この管理に終始してしまう失敗も少なくないと思います。私自身の経験を思い返しても、WBSと課題管理表の管理をしておけば大丈夫という安心感をもっていたのも確かです。
前述のようなWBS管理だけに終始してしまう理由は、プロジェクトに求められる視点が「スケジュール・時間管理」に特化しすぎているためではないかと感じます。結果としてスケジュール通り進むことは素晴らしいのですが、細分化すればマネジメント範囲はもっと細かく定義できるはずなのです。
その細かなマネジメント領域を把握できれば、偶発的な成功ではない、より確実なプロジェクトの成功が見えてきます。
では、本当に大切なプロジェクトマネジメントの本質はどこにあるのでしょうか。
プロジェクトマネジメントに必要なこと
では、このあたりで世の中の正解と照らし合わせてみましょう。
プロジェクトマネジメントといえばこの体系と言われる有名なPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)。プロジェクトマネジメントの知識体系を纏めたものです。
PMBOKの定義の骨子は下記の通り定められています。
【PMBOKの知識体系】
1 スコープ・マネジメント
2 スケジュール・マネジメント
3 コスト・マネジメント
4 品質マネジメント
5 資源マネジメント
6 コミュニケーション・マネジメント
7 リスク・マネジメント
8 調達マネジメント
9 ステークホルダー・マネジメント
10 結合マネジメント
11 計画プロセス群のまとめ
ざっと項目化しただけでもこれだけありますが、詳細を見るとじつに細かく定義されているPMBOK。私が拘ってきたスケジュール・マネジメントは10個の項目の一つでしかありません。プロジェクトマネジメントに悩むマネージャー1年生は、これを見ると目を背けたくなる項目と思えるかもしれません。しかし、網羅されている分、どのプロジェクトにも共通する課題が発見しやすい面もあります。
今回は、ここですべて触れるには難しいため、筆者の経験から思う見落としやすいポイントに絞ってみていきます。
ここだけは押さえたいプロジェクトマネジメント
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1 正しくプロジェクト化して考えているか
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こちらは先ほども触れた点ですが、おさらいしましょう。プロジェクトは、複数のタスクを組み合わせて1つの目標を達成するものです。今一度、あなたのプロジェクト化感度を確認してみましょう。プロジェクト化においては、
• 目標の規模が小さくても、大きくてもよい
• 自分一人ではなく、社内外と協力して多くのメンバーで遂行することが多い
• 目標達成までの期限が決まっている/決めることが望ましい
• 状況のレビューや、進捗状況の確認が必要
という点が重要です。プロジェクト化すべき仕事がないか確認しましょう。尚、あまりにも小さな規模の目標においては、プロジェクト化することで動きが重たくなるケースも当然あると思います。その場合には、自分の中ではプロジェクト化し、そぎ落として精度を保つことをお勧めします。最初からプロジェクト化しない選択は、思わぬリスクを伴います。
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2 言われたままのプロジェクトゴールをぼんやり置いていないか
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次に大切なのが、プロジェクトのゴールです。ゴールは期日だけのゴールでは不足しています。その際参考にしたいのが、PMBOKでも最初に出てくる「スコープ・マネジメント」の考え方です。
スコープとは、プロジェクトに求められる要求事項の範囲と、成果物や作業の範囲のことです。実は、新たな企画系プロダクトの場合、スコープ・マネジメントは丁寧に行わないと大きなリスクをもたらします。
例えば、新たなプロダクトをリリースする、となった場合、製品が出来ればよいということはなく、マニュアルや仕様書、業務フロー図、約款、関連管理システムなど、そのリリースを成功に導くための全体像を描くことが求められます。最初のスコープから抜け落ちていた作業を巻き返すのはプロジェクトの遅延に直結することは想像の通りです。
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3 スケジュールは「いつ」だけでなく、「誰が」「どの程度の工数で」まで見込めているか
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スケジュールは誰もが意識するのでここでは語らないこととしますが、このフェーズにおける注意点は、2つあります。まずは「誰が」です。社内のプロジェクトでも、社内外のメンバーで構成されるプロジェクトでも、「誰が」のコントロールが出来ていないと責任も曖昧になり結局遅延に繋がるというリスクはよくあります。コントロールする相手が、上司でも、クライアントでも躊躇せず「誰が」を意識してコントロールすることが重要です。
そしてもう一つが「どの程度の工数」かを見極めることです。これが出来ていないケースは直近でも経験があります。慣習的にこなしてきた作業であっても工数が正しく算出されていない事柄は多く存在すると思います。
この工数算出が、資源マネジメントにもつながるので、工数の見積もりは必須といえますが、経験値のあるプロジェクトほど、流れで実施に持ち込んでいるケースが殆どではないでしょうか。これでは、プロジェクトが増えた際に立ち行かなくなるリスクがあります。
この辺りは、私自身書いていて胸が痛む部分です。精神論で巻き取る、やり切るは、結果誰も幸せにはなりませんね。
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4 進捗が悪いのを、自分以外の何かのせいにしていないか
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プロジェクト進捗が悪い場合、「〇〇がベンダーから上がってこない」「調整に時間がかかっている」「納品が遅れていて」「〇〇回答待ちの状態です」など、様々なケースが考えられます。私も、よく使うセリフが正直いくつか・・・。自分ではどうにもできない状況に一番悩みを抱えていました。
しかし、これらはプロジェクトマネジメントの観点から本当に何もできない状況なのでしょうか。
これは最近のあるPJTにおいて、プロのコンサルの方からフィードバック頂いたことなのですが、このPJTは「コミュニケーション・マネジメントに課題がある」ために上手くコントロール出来ていないとの助言でした。これは私にとって、とても良い気付きでした。
コミュニケーションは頻繁にとっていたつもりでも、それが効果的な働きに至っていなかったのです。PMBOKにおける「コミュニケーション・マネジメント」は、コミュニケーション不足が起因するミスやロスを低減するため、コミュニケーションのルールを設定することです。会議体や情報伝達のツールやルールを決めることです。私たちのPJTは、型に従い最低限のルール決めは出来ていたはずなのです。しかし、プロはこう言います。
「メンバーが議論に入りやすいような、議論を活性化させるような情報提供や事前準備が不足している。これではいくら会議を重ねても、中身が追い付かない。」
全くその通りです。会議体だけ決めて進めてもプロジェクトの質は上がりません。時間を使って進めているはずなのに進捗しないという最悪な状況に陥りかねません。「もっと工夫して出来ることがあるはず。型に甘えず相手目線で状況を考えよ」という良い教訓になりました。
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5 参加者全員の共通ゴールは明確か
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最後に、メンバーの活動の質に大きく関わる、ゴールの共有です。客観的にみるととても当たり前のことのように思いますが、当事者は意外に無頓着であることが散見されます。
「進捗させるのが仕事」
「言われたことを正しく納期までにやらなくちゃ」
こういったタスク的な集まりがプロジェクトになってしまっているケースがあるということです。しかし、メンバーそれぞれがゴールを向いていない場合、気づくべきリスクにも気づけませんし、作業の手戻りも多くなります。
プロジェクトマネージャーは、上司も部下も関係者へも遠慮せずにゴールを簡単な言葉でいつも伝えることが求められるのです。
• 「いかに多くの人に知ってもらうかが重要だ」
• 「誰にも負けない高機能サービスを作ろう」
• 「お客様にとってシンプルな作りにしよう」
など、リーダーが口にする意思はメンバーに伝わり、様々な状況判断に役立つはずです。
適切なプロジェクトマネジメントで、イベント価値を最大化したい
ここまで書いてきて、私自身の反省が大変大きいことに気付きます。でも誰もが抱えるプロジェクトマネジメントにおける“もやもや”のヒントが、体系化された知識で解決できるというのは救いです。上手くコントロールすれば改善チャンスのある状況と捉え、これからのプロジェクトマネジメントをよりよいものにしていきたいと思います。
そして冒頭に触れたようにプロジェクトマネジメントのゴールには、それを共有する仲間や相手、お客様がいるはずです。そのゴールにいるお客様や働く仲間などの顔を思い浮かべ、そこにいる人にとっての「イベント価値の最大化」を思い描くことが、決して楽ではないプロジェクトを推進する大きな力になる気がします。
今年はこれをモットーに邁進して参りたいと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。
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